倉場富三郎の遺志が、「グラバー図譜」になって蘇えった日

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今日8月26日の昼下がりの蝉しぐれのなか、ウエストコーストの外人墓地(坂本町国際墓地)でささやかな慰霊祭が行われた。

外人墓地の中にある日本人名の墓碑、プロテスタント牧師による慰霊の祈り。なんとなく複雑な背景が感じられる慰霊の対象の人物の名は「倉場富三郎」。あのトーマス・グラバーと妻ツルの愛息だ。

トーマス・グラバーは、鎖国が開けて開港まもない長崎でグラバー商会という貿易会社を起こした英国人。幕末時は、坂本龍馬や薩長土の討幕派を支援し、武器弾薬や艦船などを販売斡旋したり、伊藤博文たち外留学を斡旋するなど活躍した人物。武器商人としては東のスネル、西のグラバーと言われたほどであるが、ご当地長崎では、武器商人という呼び方には消極的。もちろん、日本初の蒸気機関車を走らせたり、炭鉱開発したり、修船場を作ったりと日本の産業発展に尽力している。
維新後、武器が売れなくなったり各藩からの資金回収ができなくなって会社は破産しているので、やはり、グラバー商会の柱は武器の販売であったことはまちがいない。
グラバーは晩年、東京で過ごしているが、お墓は長崎の坂本国際墓地にある。


b0009103_405141.jpgグラバー家の二代目となるトーマス・アルバート・グラバー、日本名・倉場富三郎は、英国人と日本人のハーフで、その生い立ちがその後、彼の悲劇の枷になる。
彼は、学習院に学び、陸奥宗光のアメリカ公使赴任に随伴して、アメリカに留学。帰国後、長崎の商社で社員をしながら「長崎汽船漁業会社」を起こし、蒸気トロール漁船をイギリスから輸入して近代漁業に貢献している。
b0009103_464055.jpgこのとき、底引き網にかかる多種多様の魚を見た彼は、分類研究できる魚類図鑑を作ろうと思い、私費を投じ、21年かけて完成させたのが「グラバー図譜」(「日本西部及び南部魚類図譜」)だ。
太平洋戦争が始まると、敵国人とのハーフである彼に対する監視の目は厳しくなり、周囲の疑いを晴らすために日本軍に協力する姿勢を見せ続けた富三郎夫婦だったが、敗戦になると、戦争協力者として糾弾されるのではないかとの不安の中、妻が急死。その後を追うように富三郎は自殺している。

富三郎は遺書の中で、「グラバー図譜」(魚類628図、貝類や軟体類をいれて総数805図)を元日銀総裁・渋沢敬三に贈っている。その後、「グラバー図譜」は、渋沢家から長崎大学に寄贈され、現在も長崎大学附属図書館に所蔵されている。

この「グラバー図譜」が、今回、長崎市内の出版社の手で、本になった。
富三郎の死後、60年となるこの日、出来上がった図譜の1冊が、彼の墓に捧げられた。

二つの祖国を愛し続けたために絶望し、自ら死を選んでしまった富三郎の下に、彼が丹精こめて描かせた図譜が戻ってきた。祈りの式典を取り仕切った牧師さんが言った「富三郎さんは、グラバー図譜の本になって蘇りました」という献辞が印象的だった。

※グラバー図譜の本について、詳細はあす書きたいとおもいます。
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Commented by せいさく0319 at 2005-08-27 06:50 x
せいさく0319と申します。
掲載されている日記を興味深く拝見させていただきました。事後の御連絡となりましたが、当方の記事にリンクをはらせていただき、日記を紹介させていただきました。

リンクをはらせていただいた件について、何か差しさわりがございましたら、その旨、御連絡ください。何分、ブログ初心者なもので、ご容赦ください。

また、よろしければ、今後とも、そちらのサイトを拝見させていただくつもりです。よろしくお願いいたします。

せいさく0319 
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Commented by HOOP at 2005-08-27 18:02
元ダイバーとしては、魚類図鑑の「画」にとても興味をそそられます。
大学のデータベースも美しいですが、手元におきたい方にとっては
それほど高価でもないのかもしれませんね。
倉場さんに、なんとも贈る言葉がみつかりません。
Commented by windowhead at 2005-08-28 12:59
せいさく0319さん、紹介ありがとうございます。ウエストコーストの出来事をPRできて、感謝です。

元ダイバーのHOOPさん、久しぶりです。
グラバー図譜の魚の絵には、いくつかうろこの形状まで書かれたものがありました。倉場富三郎は、本気で日本の漁業の発展のためにこの図譜を編纂していたことが、よく分かります。
by windowhead | 2005-08-27 04:01 | 幕末維新 | Comments(3)