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「輪違屋糸里 上・下」浅田次郎(文芸春秋社)

史実の隅っこにいた人が突如際立つ浅田流、涙腺刺激の浅田マジックも健在。

「壬生義士伝」で日本中を泣かせた浅田次郎による「新選組」異聞第2弾。

上洛から芹沢鴨暗殺事件までを「糸里」「吉栄」「お梅」「お勝」「おまさ」という女たちの語り口で描いていく。
「糸里」と「吉栄」は島原の天神。芹沢鴨暗殺時、その場にいながら助かった。 「お梅」は芹沢と同衾していて暗殺された。「お勝」は前川家当主の妻で、お梅の旦那である菱屋の姉。「おまさ」は八木家当主の妻。

男たちがなりふりかまわず必死で自分の中の正義を貫こうとすることによって、裏切られ、利用されていく女たちが、それでも身体を張って自分の一番大切なものを守っていく姿が切なくも、凛として潔い。

自分の信義と仲間への一方的な献身や一途な思い込みがコミュニケーションの断絶を引き起こし、絶望的な事件へと進んでいく男たちの不器用な悲しさ。それに引き換え、女たちはそれぞれ情報交換しあいながら自分の周辺を守り、お互いを思いやる心の深さまで獲得する。現代に通じるような要素もある。

平間、平山と同衾していた糸里、吉栄が難を逃れたことや、平間の失踪など、史実の芹沢鴨暗殺には、不審な点がいくつかあるが、著者は、独自の解釈でこの謎を解き明かす。

また、最後の最後で、なぜ土方が「ラストサムライ」という十字架を背負って、箱舘まで戦い続けることになったかも独自の解釈をみせてくれる。

「壬生義士伝」と同様、歴史を背景にしたフィクションのおもしろさを堪能させる一冊。

それにしても、吉村貫一郎や、糸里のように、これまで史実の片隅にたった1行ほどしか書かれていない人々を主人公にして小説としてふくらませる著者の想像力に感謝したい。
知らぬ間に涙がとまらなくなる浅田マジック。「糸里では泣けないよ」と嘯いていた私だが、土方でツボを押された。
浅田マジック健在です。
by windowhead | 2004-09-26 21:38 | 至福の観・聞・読

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


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