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新選組のバックボーンを理解するならこの1冊!

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「未完の多摩共和国=新選組と民権の郷」 
 佐藤文明著 凱風社


あと3ヶ月弱で、「新選組!!土方歳三最期の一日」を観る事になる。うれしいような惜しいような複雑な気持。
三谷幸喜が新選組のイメージアップに貢献してくれた功績は大きい。
一番はなんといっても山本耕史の土方歳三。しばらくはこの土方を越える土方は現れないと思う。実年齢に近い配役で若々しい群像劇になっていたし、さまざまな解釈がある流山の別れも納得のいくものになっていた。新選組ファンとしてはうれしいかぎりだったが、そんな三谷がなぜ?と、いまだに理解できない「あること」があって、手放しで三谷幸喜の新選組をすばらしいと言えないでいる。

「あること」とは、佐藤彦五郎と小島鹿之助の人物設定だ。
あれほど新選組を勉強したという三谷が近藤勇と義兄弟の契りを結んでいるこの2人がただの名主でなはいことを知らなかったはずがない。
開明的で相当の教養人であり文化人でもあったこの2人がどれだけ金銭的にも精神的にも新選組の支えになっていたかが、まったくドラマの中で表現されていなかったし、どちらかというとただの田舎のおじさん風に描かれていた。芹沢鴨をあれほど持ち上げるなら、その何分の一でも多摩のスポンサーたちの尽力を描いて欲しかった。

図書館で偶然にであった「未完の多摩共和国ー新選組と民権の郷」は、農民の子が武士になるという従来の立身出世願望型の新選組像では理解しにくい、新選組幹部たちと多摩のスポンサーたちの濃厚なつながりをわかりやすく教えてくれる。それは、もののふの郷であった多摩という土地が育んできた共和的なスピリットであり、それを守る多摩人ネットワークによるものだという。

幕末期の多摩は開明的な代官と優秀な名主たちの協議と自治力で発展してきた豊かな土地で、その中心的な存在である寄場名主は相当な支配力と資金力をもつ教養人たちであり、同時に胆力と行動力も兼ね備えていた。日野宿の寄場名主を11歳で継いだ佐藤彦五郎もそのような大人物だったらしい。この本は、佐藤彦五郎を中心に彼の周辺の人物や出来事にスポットをあてた歴史ドキュメントになっているので、当然ながら多くの部分が新選組の歴史とシンクロしている。
この本によって、初めて知ったことも多く、いくつかの疑問も解決した。


どのようないきさつで試衛館に神道無念流の錬兵館から応援が来ていたのか?という疑問があったが、斎藤弥九郎と江川代官の関係、江川家と日野・佐藤家の関係からその疑問は解けた。
ついでに言えば天然理心流は、多くの本で弱小の流派であるように書かれているが、いくつかの流れがあり、中島三郎助のような幕府要人も天然理心流を極めている。決して得体の知れない田舎剣法ではないのだ。

新選組のなかでの、土方歳三と井上源三郎の地位の不自然さにも疑問があった。八王子千人同心の家の出身であり年齢も上の井上が、新選組では、若年の歳三の下に位置している。井上は周斎先生の弟子なので、勇と兄弟弟子。実力がどうこうという人もいるが今の時代に置き換えても、歳三がナンバー2というのは不自然だ。
だが、これも、歳三が佐藤彦五郎の代理だとすると納得がいく。義兄弟の勇とともに将軍家を守って上洛したかった彦五郎だが、寄場名主という要職にあるため志は叶わない。そこで、自分の名代としてその責任を歳三に任せたのだとすると、副長の位置に歳三がいるのは理解できる。歳三が多くの手紙を佐藤彦五郎に送っているのも報告書の意味もあるからだろう。
また、歳三が市村鉄之助に託した言葉にもそれが表れている。「われ、日野・佐藤に対し、なにひとつ恥ずることなきゆえ、どうかご安心を」というのが伝言の言葉だ。

豊玉発句集の句の疑問も1つ解けた。
「公用に 出て行く道や 春の月」
この句だけはどうしても多摩時代の句とは思えなかった。理由は「公用」という言葉にある。薬売りや浪人のような身分の歳三に公用という言葉が似合わなかった。しかし、本書の著者によれば、この公用は義兄・彦五郎の命令で、気心の知れた小野路の名主・橋本家に行く用事らしい。なるほど、公用のわりには、のどかに月など鑑賞しているわけだ。
歳三は、佐藤家では、彦五郎からもノブからも実によくかわいがられている。
彦五郎は、歳三の死後、新選組の身内として中央から嫌がらせや無理難題を押し付けられているが、歳三の思い出につながるものは身を盾にして守っている。自分のもう1つの理想を自分の代わりに実現してくれた義弟への溢れんばかりの愛と男の意地を感じさせるエピソードだ。

明治期の多摩は自由民権運動の盛んな地でもあった。
新選組と自由民権運動。何も知らなければ相容れないとしか思えない2つのグループだが、根っこは同じという。脈々と流れる共和と自治の歴史がもたらす自由な精神が、通奏低音のように2つのバックボーンを貫いているのだ。

新選組のバックボーンを再認識するためには、この本が最良の道案内になりそうだが、定価2500円はちょっと高い。それでも、購入して損はないと一冊と思う。
ちなみに、著者の佐藤文明氏は、日野の上佐藤家の出身とか。
by windowhead | 2005-10-13 04:35 | 至福の観・聞・読

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


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