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「新選組!!・土方歳三最期の一日」観ました、たのしみました。

3日と7日、2回しっかり楽しんだ。
しっかり楽しんで「おもしろかった!」で終わりたい!が本心。
でも、同じように、それ以上に情熱をかけて「新選組!、!!」を応援してきた皆さんが感想をアップしてくれている。自分は書かないで人様の情報を楽しむのはずるいよね。ということで、私もささやかに感想を書いておこう。


近藤の死後箱舘までの土方の捉え方は人様々のようだ。
私は、土方は死に場所を求めて闘っていたとは思っていない。今回の「新選組!!」を見たあともその考え方は変わらない。
死に場所を求めていた人間に大軍の指揮はできないはず。いくら天才的な指揮官であっても、その人に生きる意欲がなければ戦士たちはどこかで感じ取る。そしてそんな指揮官に命をあずけることに動揺し、戦闘意欲もそがれる。そんな軍隊が勝ち続けるはずがない。土方隊がそれなりに勝ち続けていることからしても土方は死地を求めて闘っていたと思えないのだ。
ただ、彼は自分の死を恐れてはいなかっただろう。それは、京都にあるときからそうだし、武士であれば戦いごとにその覚悟をするのも当然。さらに、自分を賭けた近藤が死んだ今、惜しむものはなにもないので、さらに峻烈に戦場に命をさらすことができただろう。いつも死を覚悟して命をさらすことと死地を求めて闘うことは、絶対に違う。

「新選組!!・土方歳三最期の一日」の中で一番気になったのはやはり土方の口から「死に場所を求めて闘ってきた」という言葉がでたことだった。でも、これは、三谷幸喜の土方像。三谷なりに、丸くはなったが人格の根本は決して変わっていないやんちゃな勢いのある土方を上手に昇天させてくれたと思う。


昨秋あたりから「土方歳三最期の一日」に向けた情報を読んでいると脚本家、俳優、製作スタッフたちのただならない熱い想いがどんどん伝わってきた。この暑苦しいくらいの想いが90分の作品に詰め込まれるのかと思うと、さすがに少し引いた。
最近涙もろくなったが私は、正面から「泣き」を取ろうとするドラマや演出が嫌いだし、特に時代劇では重苦しい演技が名演というような日本人的評価も好きでない。さらりとのれんをくぐるように自然でなにげない時代劇の名作はないものかといつも思っている。

その意味で、「土方歳三最期の一日」は、私の中では名作だった。

部分で見ると、脚本がいい、演出も照明も撮影もいい、役者たちは細かく計算し、絶妙の演技をしている、多用されている長回しのシーンと、かなり質の高いレベルのものが集まっているのに、出来上がったものがとても「軽いし、わかりやすい」。
熱意の渦からその中心にある一番熱い部分を取り出したんだなあ。最も熱い部分は「透明で静か」なのだ。


作品の中味に少しふれよう。
箱舘の土方を物語るエピソードが盛りだくさんに挿入されていてうれしい。
戦場でお酒を配るエピソードは史実では二股口の戦い時だが、函館山に変えて、それも敵陣からかっぱらってきた酒という勢いをつけている。ここで、新選組本体が函館市中を警備し、土方とは離れていたことをさらりと説明している。
吉村鉄之助に写真を託すシーンも本当はこの日ではないのだが、外すわけにいかないエピソード。ここは女性ファンの泣きを誘えるシーンだが、ポイントだけにしぼってさらりとやってくれた。残していったカンテラが後のシーンで重要なポイントになったのはにくい。
蝦夷新政府が市中から無理な徴税を決めるのに反対したり、決戦前にたまったツケを支払ったというエピソードも他人の会話の中にさらりと盛り込んである。それでいい。善行やかっこよさはさらりと見せてこそカッコイイ。

榎本との対話シーン、大鳥も含めての室内シーンはまるで演劇を観ているように飽かせない。舞台中心の俳優たちの台詞は「かつぜつ」が良くて聞きやすいし、台詞の機微や会話のタイミングがおもしろくて話の流れを自然に理解させていく。台詞の計算された積み重ねと、お遊びのポイントが絶妙だなあといまさらながら三谷幸喜の緻密さに驚いた。

榎本役の愛之助さん、掴み所のない複雑な榎本を好演。髭があっても愛之助の色っぽさは少しも翳らない。山本土方の色っぽさが青くはかなく見えるほど、堂々とした色気だ!
榎本と土方のシーンに、安部公房の戯曲「榎本武揚」がかぶる。食えないトリックスター榎本の言葉の数々に翻弄される固定観念の土方という戯曲だが、すでに海外経験が長く自己の固定観念を覆されてきた榎本と自分の経験を信じて進む土方は、先進性のうんぬんではなく、別の人種なのだと思う。
別の人種が心を開くまで論議することで、お互いを知り一つの夢に互いを託すことができるまでになるというメッセージか。

「あきらめない」という言葉が山本土方から発せられた。これだけで、これまで山本土方を応援し続けた行為が報われた。
夢があるなら勿論だが、夢がなくなっても明日が来るのなら明日のために今日をきちんと生きる。土方が、近藤と別れて以後生きてきた姿がそこにあると思う。

死の瞬間に香取近藤の姿が出てくるのは「新選組!」の続編としての予定調和だが、首を落とされる瞬間の「とし…」の映像とは不意打ち。不満がないわけではない。いっそ「オレの道場にこないか!」の若い近藤のほうがよかったなあと私だけの思い込み。


もっとも好きなシーンは、最初の「待たせたな」後の気心の知れた島田たちとののくったくない会話シーン。
慕われる土方だが、相変わらず多摩の歳三のやんちゃさが残っているし、死線を潜り抜けてきた猛者たちの心のつながりが見えてたのもしかった。この猛者たちが、土方の死後、母をなくした子どもたちのように泣きくれていたのだ。
この「土方歳三最期の一日」の中でも、残された新選組隊士のことを考えると一番悲しくなってしまう。

最後に一番感動したシーンは…。
だんだら羽織を裂いて決戦の「はちまき」にする土方のシーン。
こんなに美しいシーンを作ってくれた三谷氏、山本氏、吉川氏に最高の賛辞を贈りたい。
史実を考えれば絶対にありえないシーンだろうが、これこそ脚色の妙。
このシーンは、陸軍奉行並の土方から新選組副長土方歳三に戻った大事なシーン、箱舘の土方の象徴的な映像だ。


いざ、書き出したらぼろぼろと書きたいことが出てくるが、まずは、これまでにしておこう。
これで、皆さんの感想を読む資格ができたぞ。さあ、土方ファンブログ巡りだ!!
by windowhead | 2006-01-09 15:56

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


by windowhead