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「4-2-3-1  サッカーを戦術から理解する」を読む

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「4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する」
杉山 茂樹著  光文社新書


たかが素人サッカーファン、中村俊輔ファンのおばさんな私だから、ミーハーチックにサッカーを楽しむことを信条にしてきた。
その私が 戦術至上主義の鼻持ちならない杉山茂樹の著書を読むことになろうとは、今でも信じられない。
この人の嫌いなところは、戦術至上主義の監督目線で、選手たちの欠点のみをあげつらう姿勢。まるで日本人選手は低能力のような書き方をする。サッカーやっていたのなら、そこらのサッカーゲームおたくではないのなら、もう少しプレーする選手へのリスペクトがあっていいんじゃないかい。と言いたくなる。サッカーは戦術でするものだ!というのなら、選手の能力をうんぬんするまえに、監督の手腕を批判するべきだろ!
と、まあ、選手中心ミーハー主義の私とは、相容れない。(こっちが勝手にそう思っているだけですけど)

その杉山秀樹の著書をここ2月に2冊も読んでいる現実。
それは、岡田ジャパンへの不安に由来する。

岡田さん就任時の「接近、展開、なんだら」という早稲田ラグビーからいただいたキャッチフレーズを聞いたとき、素人頭に「?」がよぎった。ラグビーはボールを前に渡してはいけない競技。それに人間が持って走る競技。どこが参考になるんだろうかと。その後このキャッチフレーズは徐々にフェイドアウトしてるようだから、無理があったのだろう。
その後も個人のスキルでつっかける、サイドチェンジを使わない、パスの連動がない、オシム時代より選手が動けていない、そんなサッカーばかり見せられ、選出される選手もころころ変わって、これでは連動なんて無理だと思わせるような采配ばかりが目に付いていた。
こんな岡田さんで、日本代表は本当に勝てるの?なにより俊輔が合流したとき、あまりの変わりように戸惑うんじゃないの?そもそも、岡田さんのサッカーは、いったい世界に勝てる形になっているんだろうか?という疑問が続いていた。

そのころ目に付いたのが杉山茂樹編集の「サッカー番長」という雑誌だった。宮本ツネ様のインタビューもあったので、即購入で読んだのだが、なんと杉山さん、私の疑問をずいぶんとすっきりとさせてくれた。少なくとも監督をどうするかと言う部分では杉山氏とお友達になれそう。

最近の中村俊輔のインタビューなどを読むと具体的なフォーメーションの話が多い。中村俊輔と言う選手はJリーグのころから、自分の出たゲームをとても客観的に解説する選手だった。試合後のインタビューでも「悔しいッス、次がんばります」ではなく「あのプレーがどうのこうの」とプレーの説明ばかりして、若者らしいかわいげがなかった。しかし、そんな選手だからファンはプレーを思い返しながら検証する癖がついてくるし、なにを言っているのか理解したいと言う欲望に駆られる。スコットランドに行ってから、ポジションも変わり、プレースタイルにも幅が出てきているのを見ると、彼のポジションの意味することや役割などを理解したくなる。フォーメーションがどんな意味を持つのかを知ると、中村俊輔の言っていることがさらに深く理解できるなあと、つくづく感じていた矢先にこの本(「4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する」)が現れた。いけすかん男の本だけど、買ったよ。

で、どうよ?と聞かれたら、悔しいけど「とても参考になった」と言うしかない。
表現には、彼なりの鼻に付く誇張や選手に対する偏った目線はあるにしろ、実に読みやすく、いろいろな布陣の意味する利点を理解しやすい本になっていた。
さらに、フォーメーションから見た近代サッカー史とも言える側面も持っている。

2002年にヒディングコリアを見せ付けられたのに、その後もブラジルサッカーにこだわった日本、2002優勝のブラジルを率いたフェリペさんが、ポルトガルを率いるや4バックを採用した流れなどを知ると、日本はオシムさんが登場するまでの8年間(トルシエ、ジーコ)世界と違った流れを進んでいたのがわかる。先に書いた「サッカー番長」の中で、宮本ツネ様が「日本のサッカーは、どこかでポキッと折れて、ヨーロッパとはまったく違った方向に進んでいるように見える」と言っていた言葉の意味の深さを感じる。

オシムさんがやろうとしていたことが「ジャイアント・キリング」のための準備だったとしたら、それを壊して「おれ流」を宣言した岡田さんは、なにをやろうとしているのか。

「岡田さんは、世界を実際より相当小さなものと解釈しているように思えてならない」という著者の感想が書かれている「あとがき」は必読!「チリ戦」の敗因が書かれているが、とても納得がいく解説になっている。
サッカーを観戦する楽しさの幅を広げてくれる1冊。
素直に「杉山さん、ありがとう!」と言える。

それでも、布陣や戦術だけではサッカーはできない。それで満足な人はサッカーゲームに明け暮れればいい。サッカーは、生身の選手が闘うからおもしろい。彼らのスキルやイマジネーションの差、気持ちの差、そこに戦術を越える特別のシーンが生まれることがある。だからおもしろいのだと思っている。
by windowhead | 2008-05-18 14:44 | 至福の観・聞・読

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


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