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「松田直樹を忘れない。」

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「松田直樹を忘れない〜闘争人Ⅱ 永遠の章〜」
   二宮寿朗 著  三栄書房


正直、どちらかというと好みではない選手だった。あの熱苦しさや子供っぽいところが苦手だった。
それでも突然マリノスが彼に戦力外を言い渡したとき、サポーターの人から転送されて来た戦力外撤回署名に躊躇することなく署名させてもらった。好き嫌いに関係なく彼がマリノスそのものだと思ったからだ。中村俊輔選手が彼を慕うのも、彼がマリノスの魂だからだと思ったからだ。
松本山雅に移籍して半年ちょっと、真夏の練習場で突然倒れ、そのまま帰らぬ人になった松田直樹というサッカー選手。
マリノスとの別れからその先、彼と彼の周辺の人々の物語がこの本にあった。

30歳代でほとんどの選手が引退していくプロサッカーという世界。松田ほどの選手でも来年もこのチームでプレーできるだろうかとの不安を抱えていた。まだ自分はできると自覚し自信をもった試合の翌日に言い渡された戦力外通告。そこから当時JFLの松本山雅への移籍を決めるまでの彼の不安と葛藤は人ごととは思えないほどキリキリと読者の身に刺さってくる。
突然人生の岐路に立たされたとき、人はどう考え、どう決断して次のステップを踏み出すのか、そして次のステージでの試行錯誤を支えるのはなんなのか。この本は、松田直樹という天才ディフェンダーの最後の生き様を通して教えてくれている。

どちらかというとシリアスな空気感に包まれた内容だが、ところどころに爽やかな風が渡るようなシーンがでてくる。二人の親友、安永総太郎と佐藤由紀彦とのエピソードだ。本物の友とはこんなに優しく厳しく温かいのだ。

「松田直樹を忘れない」、私が薦めるまでもなくマリノスサポや山雅サポの人たちは、すでにこの本を手にしているだろう。
私はこの本をあえて長崎の人たちに薦めたいと思っている。
この本の中で長崎がとても重要な役割をしているからだ。
終始松田直樹を受け入れ、時には厳しくアドバイスし、時には家族全員で癒しの場となってくれた親友・佐藤由紀彦。長崎は今も彼が松田直樹の遺志を継いでサッカーを続けている所だからだ。J2初昇格で躍進している「Vファーレン長崎」。このチームのキャプテンが背番号10番の佐藤由紀彦だ。

松本山雅行きを決めた松田直樹は、長崎の佐藤由紀彦に松本山雅で一緒にプレーしないかと本気で誘いをかけている。「自分には備わっていないが、由紀彦にはキャプテンとして人をまとめる力がある。一緒に山雅でJ1を目指そう」と懇願に近い誘いをうけながらも、長崎をJリーグに上げるほうを選んでくれた佐藤由紀彦。昇格をかけたシーズン半ばに親友松田直樹を亡くしたが彼との約束であり、長崎の悲願でもあったJ2昇格を勝ち取った。
昨シーズン、Vファーレン長崎ホーム最終戦後、キャプテン佐藤由紀彦がなぜ背番号3番の横浜Fマリノスのユニフォームを着て優勝杯を掲げたのかーー。
「松田直樹を忘れない」は、佐藤由紀彦の物語でもあるのだ。

長崎はこんなに爽やかで優しく幸せな所だったのか。
佐藤由紀彦とその家族が登場するシーンは、爽やかな風と明るい光に満たされた別天地のようで印象深かった。
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by windowhead | 2013-09-05 02:24 | 至福の観・聞・読 | Comments(0)

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