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幕末の長崎人・森山栄之助 ①

もう2年前になるだろうか、幕末関係の書籍の出版企画があり、原稿依頼が来たので、ぜひとも書きたかった森山栄之助のことを書こうときめたが、企画の人選に森山は合わないということで、他の人物を書いた。そのとき、すでに森山についてのことをまとめていたが、その後手をつけてないままだった。
ながさきの空に森山を紹介したこともあり、さらに詳しいことを知りたい人のために(いるか?そんな人)その原稿をブログにアップすることにした。

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森山 栄之助
幕末外交の現場を語学力で支えたオランダ通詞

嘉永6年6月3日(1853.7.8)、浦賀沖に突如姿を現したペリー艦隊によって日本の開国が始まった。このいきさつは「泰平の眠りを覚ます 上喜撰 たった四杯で夜も寝られず」という狂歌とともに、脅されて不平等条約を結ばされたという認識が一般的だ。しかし海外の文献も交えて幕府の外交を追っていくと、私たちが教わった開国とはすこし違った姿が見えてくる。そしてそこからほとんどすべての条約締結にかかわった一人のオランダ通詞(通訳)の存在が浮かび上がってくる。
森山栄之助(多吉郎)。条約締結した欧米諸国に残る文書や伝記・航海記などに数多く登場する日本人名だ。オランダ人より流暢にオランダ語を話し、諸外国との条約締結も彼の通訳や翻訳力がなければ難しかったと書かれている。その生涯は幕末外交そのものでもあった。

森山栄之助は、文政3年(1820)6月1日、長崎・馬町のオランダ通詞の家に生まれた。オランダ通詞とは、長崎出島でオランダ語を通訳・翻訳する地役人で世襲制であった
当時の長崎では、オランダ通詞がオランダ語以外の外国語の必要性を痛感した始めたころでもあった。森山は10歳を過ぎると稽古通詞になり、オランダ語のほか英語の習得にも勤しんだが、師となる人材は英語を解するオランダ人しかおらず、効果的な学習にはなりえなかった。23歳の森山に浦賀詰通詞役が回ってきた。浦賀での勤務中に米船マンハッタン号が日本人漂流者を乗せて来航した。このとき対応した森山についてマンハッタン号の船長は「英語も少しできるが動作による意思伝達がとても上手だ」と語っている。
英語力のつたなさを痛感した森山にチャンスがやってきた。日本への憧れから漂流民を装って捕鯨船から降り北海道に上陸したアメリカ人、ラナルド・マクドナルドが長崎に送られてきた。奉行の尋問を通訳した森山はマクドナルドを励まし、彼が重罪にならないように踏絵のことなどを事前に説明した。マクドナルドが軟禁されると、森山をはじめ14人のオランダ通詞たちが奉行に願い出てマクドナルドから英語を学ぶ許可を得た。これは日本を知りたがっていたマクドナルドにとっても好都合で、座敷牢の格子をはさんで授業はほぼ毎日行われた。なかでも熱心で優秀だった森山のことをマクドナルドは自著の中でも特筆している。充実した勉学の日々は勾留者引取りの米艦プレブル号が来るまで続いた。長崎にはマクドナルドと同時期に米捕鯨船ラゴタ号の船員たちも勾留されていたが、彼らは脱走や暴力を繰り返していたため厳しい勾留措置がとられていた。帰国後、ラゴタ号の船員たちが日本で非人道的な扱いを受けたと言及し、これがアメリカ国内でセンセーショナルに伝えられ、後のペリー来航の引き金になっていった。
マクドナルドが去った後、森山は仲間の通詞たちと英語辞書の編纂に取り掛かった。「世界」や「自由」という言葉がなかったこの時代に、日本で初めてworldを「世界」、freedomを「自由」という言葉を作り翻訳したのは森山たちだった。嘉永5年に出島のオランダ商館長がペリーの来航を予告した「別段風説書」を幕府に提出し、幕府内では鎖国か開国か激論が交わされ、その対策に揺れ動いていた。そのような情勢の中、ペリー艦隊が来航した。

ペリー来航を知るや、幕府は英語が最も堪能な森山たちを長崎から呼び寄せるが、彼らが到着したときペリー艦隊は翌年の再来航を約束して浦賀を離れていた。そのすぐあと長崎にロシアのプチャーチン艦隊が来航した。森山たちはとんぼ返りで長崎に戻り、プチャーチンとの交渉にあたった。交渉はロシア応接掛・川路聖謨の巧みな交渉力もあってほぼ幕府の満足のいく内容で進められた。川路の通訳を務めたのは森山だった。プチャーチンの秘書ゴンチャローフは著書「日本渡航記」で森山の印象を「他の者と違って大胆であり、英語は少ししか話さないが、内容は全部理解している。彼が、日本は今後鎖国法などを変えなければならないと考えていると知って驚いた」と書いている。外国語を操り、外国人に臆することなくことに当たり、幕府要人たちの不安を取り除く心配りも忘れない闊達で人当たりのよい国際人の姿がそこにあった。森山はこの交渉で大通詞に昇格した。

 ②につづく
by windowhead | 2014-08-23 18:27 | 長崎と幕末維新

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


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