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バッグの中に「中村俊輔 サッカー覚書」

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「中村俊輔 サッカー覚書」中村俊輔・二宮寿朗 文藝春秋(¥1500+税)

これだけいろんな選手や監督の本がでているのに2009年の「察知力」や「サッカーノート」以後、中村俊輔の本が出ていなかった。
「察知力」は驚きの新書版だった。その後、いろんな選手の「○○力」なる本が新書版で出されたが、それまでサッカー選手の本が新書版なんてなかった。
今では多くの選手たちが書いているというサッカーノートというものを一般化したのも中村俊輔だ。「夢を叶えるサッカーノート」という本はサッカーノートを通して俊輔の思考や実践を楽しめる画期的な一冊で俊輔考案のサッカーノートがセットで付いていた。このノートは3冊セット今も書店に注文すると購入できる。
サッカー選手の本の世界でも新しい試みにチャレンジしていた彼の本が10年近くも出なかったのは寂しい限りだったが、このサッカー覚書が「Nmuber」に掲載されだしてからは、複雑な思いを抱えながらも楽しみだった。
複雑な思いは、「覚書」という言葉にあった。
最初のサッカー覚書が掲載されたのは2012年で中村俊輔は33歳の終わり頃だった。彼のサッカー人生の集大成にする予定の連載なんだろうなあと考えたくない引退という現実を突きつけられた思いだった。
あの日から5年以上、覚書も20回を越えた。

2013年の2度目のJリーグMVPの後もマリノスでの優勝を目指してひたすら頑張ってきた人だ。マリノスがシティの傘下となり、最高の設備だったマリノスタウンがなくなり、今の練習環境に変わってもひたすらチームの顔として頑張ってきた彼が、昨シーズンジュビロ磐田に移籍したのはサポとしても衝撃だった。
でもその2年前のシーズンごろからすごく苦しい思いを内に秘めて闘い続けているなあ、華を殺しても闘将になろうとしているなあという感じがしていたので、純粋にサッカーと向き合いたいからとジュビロに移籍したのは納得がいくことでもあった。

中村俊輔サポにとってはどこにいても中村俊輔は中村俊輔。
トリコロールもサックスブルーもどちらも中村俊輔なのだ。だってトリコロールからレッジーナの臙脂色、セルティックのグリーンと白のボーダー、エスパニョルの青にタスキ、それに日本代表のサムライブルーといろんな色の中で輝く彼を見てきている。それぞれの色の中で確かな存在だったのだから。

このサッカー覚書が40歳を前に現役バリバリの今出版されたのは痛快だ。
日本で最も秀でたサッカー脳を持つ選手の思考の歴史を振り返る完結本になるはずだった。それが彼の今現在の思考を読み解き、未来を担う試行錯誤に寄り添いながら一緒に走り続ける現在進行形の本になっている。まだまだサッカーを通して成長し続けるモチベーションは泉のように湧き続けているようだし、積み重ねてきた経験が人としての幅や深さも広げている。それを見ながら今まで以上に俊輔の思考を探り楽しんでいける気がする。
エピローグに吐露される今現在の彼の本心にはファンでなくても心が締め付けられるだろう。でもこの気持ちは彼のような有名選手ではなくても、普通のおじさんでも経験し感じることなんだろう。その傷に向き合いながらコツコツと闘志に変化させて結実した姿を見せてくれるからこそ中村俊輔は「中村俊輔」なのだろう。
彼のサッカー人生はロールプレーイングゲームの勇者のようだ。まだまだ幾つものステージがあるのだろう。全てをクリアするのか、途中で倒れるのかわからない。その一部始終をリアルタイムで伝えてくれるのがこれからのサッカー覚書なのだ。
中村俊輔のサッカー覚書はまだ続く。第2巻、第3巻と続いてくれることを願っている。
この勇者が「アヴァロン」に眠るのはまだまだ先のことであってほしい。
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※この本は長崎市図書館にもリクエストして蔵書してもらった。本は買って読むものだというのが持論ではあるが、今の出版事情では長いこと書店の棚に並ぶことは難しいし初版のみで終わる本が多いようだ。(ちなみに中村俊輔の「察知力」は9年間で16版まで版を重ねているロングセラー。スポーツ選手の本でこの重版は珍しい。サッカー覚書も重版されると思うのだけど)長く多くの人に読んでもらうには図書館に収めておくことも大切だと思う。「中村俊輔 サッカー覚書」は、そんな普遍性のある本であることは間違いない。

by windowhead | 2018-03-29 05:24 | 10中村俊輔の今

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


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