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日本人はなぜシュートを打たないのか?

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「日本人はなぜシュートを打たないのか?」
  湯浅健二 著  
  アスキー新書

サウジ戦の負けで、中村俊輔や中澤ユージ、川口ヨシカツにとっては人生最後になるだろうアジア杯(次は2011年だから、俊ちゃん33歳)が終わった。韓国との3位決定戦はあるけど、実質終わったと言ってもいいだろう。

ゲームとしては、とてもおもしろかった。
ゲームを支配していたのは日本だったのに、個人の強さの差で負けたような試合。
一昔前のプレミアみたいなオーストラリア戦は、タフなゲームだったけど、理解できるフィジカルだったり、技術だった。サウジアラビアは、それがもう少し強いというか野性的な強さやあざとさのあるチームだった。そうだよ、昔からアラブは一癖あったよなあ。それに立ち向かう日本は、少年のように律儀でまじめで必死。
それが日本のよさなんだろうけど、一人ぐらいは、抜け駆けするような愛嬌のあるふとどき者がいてもよかったんじゃないかなあと。

TVでは、セル爺や松木がシュートで終われ、シュートで終われ!と耳にたこができるほど言っている。
いつもは、癇に障るセル爺の言葉も昨日は、そうだ、そうだと共感しながら聞いた。
「中村俊は日本でも最高のキッカーなのだから、もっとシュートを打つべきなんだ。いいキッカーが打てば入る可能性は高いんだから」 そうだよ、俊ちゃん、なんで君が「ふとどき者」にならない!君がなれば皆の「つながねばならない」という呪縛の箍が外れただろうに。


ジェフ千葉の躍進時をよく知らない私には、アジアカップはオシム監督のやりたいサッカーの形を知るいい機会だった。
ああ、「トータルフットボール」がやりたいんだなあと、漠然とわかった。そして、オシムさんがやりたいものの完成形は見られなかったが、随所随所でその断片を見せてもらったと思う。さらにアジアカップのたった数試合でも、どんどんその断片が成長していったのも見ることができた。


じつは、オシム監督のサッカーを形として理解できてきた参考書がある。
それが、湯浅健二氏著の「日本人はなぜシュートを打たないのか?」という新書だ。
残念ながら、この本はオシム本ではない。
それでもオシムのサッカーが手に取るようにわかるようになるのは、オシムのサッカーは、オシム独自の特別な戦術ではなく、ヨーロッパで一般的なモダンサッカーの基本のようなものだからなのだ。
今50歳代の湯浅氏が、サッカー留学していたころのエピソードを元に書かれているのだが、ドイツではこのころから、スペースをつくるためのクリエイティブな無駄走りや攻撃の起点を消すディフェンス、全員攻撃全員守備などが行われていたわけだ。
日本でも、ラモスや与那城ジョージたちがいた読売クラブで取り組んでいたようだ。ラモスたちが超人的に見えたのは組織としてのサッカーに卓越した個人技がうまくシンクロしていたからなのだ。

「イメージの共有」とか、「考えながら走るサッカー」「スペースをつくる無駄走り」とか、「守備は攻撃の起点」とか、よく言われる、よく書かれているが漠然としているフレーズが、とても具体的にイメージでき、理解できるようなエピソードが盛りだくさんに書かれている。
全員が走ることで、スペースができ、そこに誰かが走りこむ。走りこんだ誰かのところにはまたスペースができる。スペースはできては消え、また別のところにできる。そこにボールや人が動いて連動ができるということを具体的にイメージできるようになっただけで、TVで見る斜め上からのアングルがさらに楽しめるようになったし、TVに映らないサイドでの選手の動きまで想像できるようになって、さらにサッカーが面白くなった。

日本人はなぜシュートを打たないのか?という命題にも触れてあるが、ここで言われる日本人特有の気質については、今のプロの選手たちはすでにクリアしている部分だと思う。この本を読んだ人が、浅く捉えて単なる責任回避の志向が強いからシュートに至らないと批判するとしたらそれは短絡的。その上で、さらに状況的なファクターやメンタル的なものがあってシュートを躊躇することがあるのだと理解したい。サッカーは見ている者が見える状況の何十倍もの不確定な要素をはらんでるスポーツなのだから。

「サッカーには、クリエーティブな無駄走りの義務をこなした報酬として自由がもたらされる。その自由は、シュートを打つというリスクを侵す自由だ」という。シュートが打てるチャンスにめぐり合えるのは貢献した報酬なのだ。リスクを侵しても責められないのだから、シュートを打とう!
ああ、なんて魅惑的な考え方か。


このようにヨーロッパでは当たり前のサッカースタイルが、なぜ日本にはいままで浸透できなかったのだろうか?
湯浅氏がコーチを勤めていた読売クラブ時代に、そのチームでは取り組んでいたスタイルが、なぜ日本に広がらなかったのか、そのころどんなスタイルのサッカーが日本人を魅了していたのか、それが知りたくなった。

改めて「日本人はなぜシュートを打たないのか?」を上稿してくれた湯浅健二さんに、お礼を言いたい。

サッカーファンの人、サッカーを知りたい人、オシムジャパンを知りたい人、この本は「花まるお勧め」。
by windowhead | 2007-07-26 15:49 | 紙のフットボール

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


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