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映画「魍魎の匣」はマカロニウエスタンだ。

京極堂シリーズが好きだから、やっぱり見に行った。

「姑獲鳥の夏」が映画化されたとき、あのレンガ本を2時間にするには無理があるねと思いながらも、実相寺昭雄監督が創りだす独特な夢幻の世界には満足していた。
実相寺監督亡き後、この世界を創れるのはだれなのか…と思っていたが、「魍魎の匣」の監督は、なんと「KAMIKAZE TAXI」や「バウンス ko GALS」の原田 眞人だ。
監督名を見た時点で、先の「姑獲鳥の夏」とは違った京極堂物になるだろうと腹をくくった。
そして、やっぱり違うものだったし、恐れず言えば怪しくノスタルジックな京極夏彦の世界ではなくなっていた。

上海ロケで撮影された戦後すぐの日本の風景は、ディティールにこだわっていても絶対に日本の空気感ではないし、エキストラの服装は日本の服なのに、やはりどこか日本人に見えない。
そのような場所で撮影されたせいか、俳優の演技もなんとなく日本的でないのが気になった。「姑獲鳥の夏」のときは、それぞれの男たちのキャラがはっきりしていたが、今回は特徴が消えてしまっている。破天荒な榎木津キャラがおとなしくなり、京極堂(中尊寺)は自分の台詞回しに酔う劇団俳優並みのはしゃぎ男になっているし、木場に至ってはやわなオタク男と化した。
残念ながら、この作品には、京極夏彦が書いた魅力的な男たちはいなかった。そして、ヒロインも。黒木瞳では日常的すぎるのだ。

だからといって、この作品が悪いということではない。
絶対に日本ではありえない空気感の土地に立ち並ぶ戦後の日本風景は、違った魅力があったテーマ音楽がタンゴ風の哀愁が漂う曲(チターが使われている?)なのもあって、無国籍な魅力があり、決して悪くない。こんなところがあったら観光に行きたいものだ。

いい男たちと、アクションと、本物には出せない無国籍さと、張りぼて的なうそくささ。
これはまさに「マカロニウエスタン」ではないか!!


最後のスペクタクルを作ることにエネルギーを費やして、京極ワールドを作り上げる大事なピースの積み上げがおろそかにされているのが一番寂しかった。
関口くんは、やさしさゆえにもっと情緒不安定であってほしい。榎木津礼次郎は「薔薇十字探偵社」という名が似合うほどもっと華麗なオレ様超能力者でいてもらいたい。中禅寺はここぞの出番以外は、せこせこ動き回って欲しくない。
そしてもっとも残念だったのは、京極堂の場所。「姑獲鳥の夏」で魅力的に再現されていた「目眩坂」が階段になってしまっている。息切れと立ちくらみは同じものぐらいにしか考えないデリカシーのなさがいかにも原田 眞人ワールドだよね。


京極堂ファンとして、この作品の中で最も好きなシーンは最後の中禅寺の家のシーン。
関口夫人、中禅寺夫人の登場で、無国籍がきっちりと日本に引き戻された。篠原涼子、清水美紗、さすがです。


話題になっている(?)「東京事変」のエンディング曲は、ミスマッチな雑音以外のなにものでもない。映画の余韻を断ち切った。

亡くなってわかる巨匠の意味。今更ながら実相寺昭雄監督の死の大きさを実感させられた作品になった。
by windowhead | 2008-01-17 15:22 | 至福の観・聞・読

日本の西海岸・長崎からのつぶやきはビンの中の手紙のように漂いながら誰かのもとへ


by windowhead